大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)18509号 判決

原告

猪狩由紀彦

ほか一名

被告

親川喜達

ほか一名

主文

一  被告らは、原告らそれぞれに対し、連帯して金一七八一万一八九六円及びこれに対する平成五年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その一を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告らそれぞれに対し、連帯して金三五〇〇万円及びこれに対する平成五年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いがない事実及び容易に認められる事実

1  猪狩忍は、平成五年四月二八日午前一一時二〇分ころ、事業用自動軽二輪車(以下「被害車」という。)を運転して、王子方面から駒込方面へ向けて本郷通り(片側二車線)の左側車線を走行中、東京都北区西ケ原一丁目三番五号先の交通整理が行われていないT字型交差点において、被告親川喜達の運転する自家用普通貨物自動車(被告有限会社南星興業保有車。以下「被告車」という。)が、反対車線から右折したため、被告車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)

2  本件交通事故は、被告親川喜達が、対向車線のうち歩道寄り車線上の車両の走行に注意すべき義務があつたにもかかわらず、これを怠り、被告車を右折走行させたことが原因であり(乙第一号証の一・二・四・五・一一、被告親川喜達の供述)、被告親川喜達は民法七〇九条の責任を、被告有限会社南星興業は自動車損害賠償補償法三条本文の責任を負う。

3  猪狩忍は、本件交通事故により第四、五胸椎圧迫骨折、脊髄損傷の傷害を負い、平成五年四月二八日から同年五月六日まで九日間、東十条病院で入院加療を受け、同月六日から退院した同年一一月二一日まで二〇〇日間、国立療養所村山病院で入院加療を受けたが、第五胸髄節以下完全対麻痺の障害(運動・知覚完全麻痺。回復の見込みがない。)を残し、同年九月九日、身体障害者等級表による級別一級と認定され、同年一一月一日、右村山病院で右内容による症状固定(症状固定日同年八月一一日)の診断を受けた(甲第三号証の一・二、第四号証から第六号証まで、第一〇号証の一ないし四、乙第一号証の七。)。

4  本件交通事故により猪狩忍が受けた損害につき、自賠責保険から一五〇〇万円(当事者間に争いがない。)、労災保険から五七万九一三〇円(弁論の全趣旨)、被告らから治療費として合計一五〇万五三五四円(乙第五号証の一・二)の支払(総合計一七〇八万四四八四円)を既に受けている。

5  猪狩忍は、平成五年一二月一五日、自殺した。

6  原告らは、猪狩忍の親である(甲第九号証)。そこで、猪狩忍の死亡により、同人が本件交通事故につき有する損害賠償請求権を、二分の一ずつ相続した。

二  争点

本件は、〈1〉過失相殺、〈2〉介護料及び逸失利益の算定の際、猪狩忍が自殺したことを考慮すべきかどうか、が争点である。

1  原告らの主張

(一) 過失相殺について

被告親川喜達は、T字路を右折し、二車線ある対向車線を横切るに際し、その中央寄り車線にダンプカーが停車していたため対向車線の歩道寄り車線の状態を確認できなかつたから、対向車線の歩道寄り車線を走行する車両の存否を確認して被告車を運転すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、時速約二〇キロメートルで被告車を、対向車線の歩道寄り車線に飛び出させ、対向車線の歩道寄り車線を走行してきた被害車と衝突させたものである。したがつて、猪狩忍には、過失がないか、仮にあつたとしても一割を上回るものではない。

(二) 損害について

猪狩忍の介護料及び逸失利益に係る損害は、猪狩忍の症状が固定した平成五年八月一一日に発生・確定し、その後、猪狩忍が自殺しても、その損害額が減少することはない。このことは、最高裁判所平成八年四月二五日第一小法廷判決(民集五〇巻五号登載予定)によつて認められている。したがつて、猪狩忍の損害は、次に述べるとおりである。

(1) 入院雑費 四一万六〇〇〇円

猪狩忍は、平成五年四月二八日から同年一一月二一日までの二〇八日間入院加療を余儀なくされた。そして、入院雑費は、一日当たり二〇〇〇円が相当であるから、合計四一万六〇〇〇円となる。

(2) 看護料 一二〇万円

原告らは、入院期間中及びその後の自宅療養期間中延べ一〇〇日以上猪狩忍を看護した。そして、看護料は、一日当たり六〇〇〇円が相当であるから、合計一二〇万円を下回るものではない。

(3) 介護料 四〇九四万九七一五円

猪狩忍の後遺障害は、後遺障害別等級表の、第一級三号又は第一級八号に該当する。そして、右障害は第五胸髄節以下の運動・知覚が完全に麻痺したというもので、猪狩忍は、自力歩行ができず、車いすの乗り降りも他の者の助けを必要とし、症状固定から平均余命までの五六年間介護を要する。そして、介護料は一日当たり六〇〇〇円が相当であり、五六年間のライプニツツ係数が一八・六九八五であるから、その合計額は、次の数式のとおり、四〇九四万九七一五円となる。

6,000×365×18.6985=40,949,715

(4) 休業損害 一八一万七五七八円

猪狩忍は、平成五年四月二八日から同年一一月二一日までの二〇八日間入院加療を余儀なくされたため、その間は就労できなかつた。ところで、同人は、平成四年六月まで自衛隊に勤務し、平成五年二月一二日に株式会社バイク急便に入社し、同月二二日から勤務をしていた。そして、本件交通事故に遭つたのが同年四月二八日であるから、株式会社バイク急便での勤務期間が短いため収入の推定が困難である。それゆえ、平成四年度男子労働者学歴計二〇歳から二四歳までの平均賃金年額三一八万九五〇〇円をもつて収入とすべきである。したがつて、休業損害は、次の数式のとおり、一八一万七五七八円となる。

3,189,500÷365×208=1,817,578

(5) 逸失利益 九七二九万二二三二円

猪狩忍は、二一歳(症状固定時の年齢)から六七歳までの四六年間就労し得た。しかるに、本件交通事故による後遺障害のために労働能力を一〇〇パーセント失つた。そして、平成四年度男子労働者学歴計全年齢平均賃金年額が五四四万一四〇〇円、右四六年間に相当するライプニツツ係数が一七・八八〇であるから、逸失利益は、次の数式のとおり、九七二九万二二三二円となる。

5,441,400×17.880=97,292,232

(6) 慰謝料 三三〇〇万円

猪狩忍は、二〇八日間の入院生活を余儀なくされた。その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は三〇〇万円が相当である。

また、同人は、本件交通事故の後遺障害による絶望感から自殺した。このような精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は三〇〇〇万円が相当である。

(7) 弁護士費用 七〇〇万円

(8) 合計 一億八一〇九万六三九五円

(1)から(7)までの合計一億八一六七万五五二五円から、労災保険から支払を受けた五七万九一三〇円(前記第二の一4)を控除した一億八一〇九万六三九五円が損害の合計である。

なお、原告らそれぞれは、金九〇五四万八一九七円(右一億八一〇九万六三九五円のうち、原告らの各相続分二分の一に相当する額)のうち金三五〇〇万円及びこれに対する平成五年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。

2  被告らの主張

(一) 過失相殺について

本件交通事故は、被告車が、対向車線の中央寄り車線の渋滞車両の透き間を抜けて右折しようとした際、対向車線の歩道寄り車線を走行してきた被害車と衝突したというものであるから、被害車を運転していた猪狩忍は、右折車の存否を確認して減速走行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つて走行した。したがつて、本件交通事故につき、猪狩忍の過失は四〇パーセントを下回ることはない。

(二) 損害について

猪狩忍は、口頭弁論終結前に自殺しており、このことを介護料及び逸失利益の算定の際に考慮すべきである。また、本件交通事故と同人の自殺との間に相当因果関係があるならば、その寄与率を考慮すべきである。

なお、その他の損害額についてもすべて争う。

第三当裁判所の判断

一  過失相殺について

1  本件交通事故は、

(一) 被告車が右折の合図をした地点が別紙現場見取図〈1〉(以下1及び2における、〈2〉、〈3〉、〈4〉、〈A〉、〈甲〉、〈a〉、〈×〉、〈ア〉、〈イ〉の記号は別紙現場見取図のものである。)、

(二) 対向車線の直進車が途切れるのを待つて被告車が停止した地点が〈2〉、

(三) 信号待ちで渋滞したため停止した対向車の地点が〈A〉と〈甲〉(車間距離七・五メートル)、そのとき被告車が〈2〉、

(四) 被告車を運転していた被告親川喜達が、右折進行中、歩行者〈a〉を見た地点が〈3〉、

(五) そして、〈A〉で停車していたダンプカーの運転手が先に行けと合図したため、被告親川喜達は、対向車線のうち歩道寄り車線につき注意を払わずに被告車を時速一〇キロメートルで進行、

(六) 被告車と被害車の衝突した地点が〈×〉、そのとき被告車が〈4〉、被害車が〈ア〉、

(七) 被害車が転倒した地点が〈イ〉、

というものであることが認められる(乙第一号証の一・二・四・五・一一、被告親川喜達の供述。なお、被告車が時速約二〇キロメートルで進行したことを裏付ける証拠はない。)。

2  そうすると、被告車が右折を開始した際、被告車の対向車(駒込方面に向かう車両。別紙現場見取図参照)は、少なくとも対向車線の中央寄り車線に渋滞のため停車しており、その際、本件交通事故の現場付近において、被告車のように中里方面に通じる道路(別紙現場見取図参照)へ右折する車両のために、停車車両(〈甲〉及び〈A〉)が七・五メートルの車間距離を開けていたものと認められる。したがつて、猪狩忍は、中里方面に通じる道路へ右折する車両があり得ることが予見できた。

そして、被害車のスリツプ痕がないこと、被害車が被告車の側面に衝突していること(乙第一号証の二・四・一一、被告親川喜達の供述)からすると、猪狩忍は被告車の存在につき全く気が付いていなかつたと推認できる。

3  以上のことからすると、猪狩忍は、右折車の存在につき注意すべき義務があるにもかかわらず、これを怠つて被害車を走行させており、同人の過失は三〇パーセントとするのが相当である。

二  損害について

1  原告らは、猪狩忍の症状が固定したことにより、介護料及び逸失利益に係る損害額が発生・確定し、その後同人が死亡してもこれらに何ら影響を及ぼさないと主張する(前記第二の二1(二))が、右主張は失当である。その理由は、後記(三)及び(五)で述べる。

(一) 入院雑費 二七万〇四〇〇円

猪狩忍は、平成五年四月二八日から同年五月六日まで九日間、東十条病院で入院加療を受け、同五月六日から同年一一月二一日まで二〇〇日間、国立療養所村山病院で入院加療を受けた(前記第二の一3)から、猪狩忍の入院日数は、合計二〇八日間となる。そして、入院雑費は、一日当たり一三〇〇円が相当であるから、合計二七万〇四〇〇円となる。

(二) 看護料 四〇万五〇〇〇円

猪狩忍が受けた傷害及び後遺障害からすると看護の必要性が認められる。

ところで、猪狩忍が東十条病院に入院した最初の三日間は完全看護であり、その後東十条病院を退院する平成五年五月六日までの六日間は原告猪狩勝江が看護をしたこと(原告猪狩由紀彦の本人調書三項)、国立療養所村山病院に転院した同月六日から同病院を退院した同年一一月二一日まで三、四日に一度の割合で、原告猪狩由紀彦又は原告猪狩勝江が看護したこと(右本人調書四項。したがつて、国立療養所村山病院において、少なくとも五〇日は現実に看護がされたと考えられる。)、右病院を退院した同月二一日から猪狩忍が自殺した同年一二月一五日までの二五日間、ベツドの上り下り等につき原告らなどが看護したこと(甲第一三号証)からすれば、以上合計八一日間が看護に必要な日数と認められる。そして、看護料は、一日当たり五〇〇〇円が相当であるから、合計四〇万五〇〇〇円となる。

(三) 介護料 〇円

介護料は、将来において被害者が出捐を余儀なくされるために認められる損害、すなわち積極損害であるから、猪狩忍が自殺したことで出捐されることがなくなれば、損害として請求できない性質のものである。

したがつて、介護料は認められない。

なお、原告らが引用する最高裁判所平成八年四月二五日第一小法廷判決(民集五〇巻五号登載予定)は、逸失利益の算定に関するものであり、介護料の算定に当たつては適用されるものではない。

(四) 休業損害 六九万八八八〇円

猪狩忍は、本件交通事故により、平成五年四月二八日から同年一一月二一日まで入院した(前記第二の一3)。しかしながら、入院期間中である、同年八月一一日に症状が固定している(前記第二の一3)から、同日以降の就労できなかつたことによる損害は、逸失利益として扱われるべきものである。したがつて、同年四月二八日から同年八月一〇日までの一〇五日間が、休業損害算定における休業した期間である。

また、猪狩忍が、株式会社バイク急便で勤務し始めたのは平成五年二月二二日からである(甲第八号証、弁論の全趣旨)が、同日から症状固定日の前日である同年八月一〇日まであまり離れていないから、その間に賃金の大きな変動があるとは考えられず、実際に受け取つた賃金に基づき休業損害を算定する方が、賃金センサスに基づき算定するよりも正確な数値が得られると解される。すなわち、同年二月二二日から翌三月三一日までの三八日間に受け取つた賃金二五万二九三七円(甲第八号証)を右日数で除した六六五六円が、一日当たりの収入である。

したがつて、六六五六円に一〇五日を乗じた六九万八八八〇円が休業損害である。

(五) 逸失利益 四八六四万六一一六円

(1) 交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定に当たつては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものでなく(最高裁平成八年四月二五日第一小法廷判決・民集五〇巻五号登載予定)、右のように解すべきことは、被害者の死亡が病気、事故、自殺、天災等のいかなる事由に基づくものか、死亡につき不法行為等に基づく責任を負担すべき第三者が存在するかどうか、交通事故と死亡との間に相当因果関係ないし条件関係が存在するかどうかといつた事情によつて異なるものではない(最高裁平成八年五月三一日第二小法廷判決・民集五〇巻六号登載予定)。

それゆえ、猪狩忍が、症状固定日(平成五年八月一一日。前記第二の一3)の後である同年一二月一五日自殺し(前記第二の一5)ても、同人の逸失利益の算定に当たつては、そのことを就労可能期間の認定上考慮すべきものでない。

そして、猪狩忍は、昭和四七年五月一六日生まれであつた(甲第三号証)から、症状固定日(平成五年八月一一日。前記第二の一3)において、二一歳となる。そうすると、猪狩忍の就労可能年数は四六年であり、その年数に相当するライプニツツ係数は一七・八八〇となる。

(2)ア また、交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した後に死亡した場合、労働能力の一部喪失による財産上の損害の額の算定に当たつては、交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があつて死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り、死亡後の生活費を控除することができると解するのが相当である(最高裁平成八年五月三一日第二小法廷判決・民集五〇巻六号登載予定)。

イ ところで、本件交通事故と猪狩忍の自殺との間には、次に述べるとおり相当因果関係があると考える。

〈1〉 猪狩忍は、本件交通事故により、第五胸髄節以下完全対麻痺の障害(運動・知覚完全麻痺。回復の見込みがない。前記第二の一3)が残つたため、排尿・排便機能が廃絶し、自力歩行ができず、車いすを使用しなければならなくなつた(甲第四号証、第六号証、第一〇号証の三)。

〈2〉 猪狩忍は、国立療養所村山病院に入院中、MRSA感染しすべてに対し意欲を失いがちになり、その後、普通病棟に戻つた平成五年九月末ころから、リハビリ、食事もあまりしないようになり、退院したいと述べるようになつた(甲第一三号証)。

〈3〉 猪狩忍の父(原告猪狩由紀彦)は、平成五年一一月一五日、国立療養所村山病院に、猪狩忍の様子を尋ね、同人の様子が変なので気を付けて欲しいと電話しており(甲第一〇号証の一、一一月一五日欄)、また、猪狩忍の看護上特に留意した点として「退院近くになり精神状態が不安定にて夜間の見回り強化」とされていた(甲第一〇号証の三)。

〈4〉 猪狩忍は、平成五年一一月、外泊後、国立療養所村山病院に戻つてから、リハビリの意欲も低下し、退院時において、精神的心理的問題があり、リハビリの「訓練も不充分で 外出特に障害物に対しては歩行が不充分 耐久性も弱く今後の予定は無く終了」ともされている(甲第一〇号証の四・退院要約)。

〈5〉 猪狩忍は、退院後、自宅においても、一日の大半をベツドで過ごすことが多く、体調が悪い日が続いた後、平成五年一二月一五日、遺書を残して自殺した(甲第一二号証、第一三号証)。

〈6〉 以上のことからすると、猪狩忍は、本件交通事故による障害の大きさとそれが治らないこと、自己が家族の迷惑になつているとの気持ちなどから自殺したと考えられ、このことは原告猪狩由紀彦の供述(同人の本人調書五項から八項まで、一三項)からも裏付けられる。

そして、猪狩忍が負つた後遺障害は、第五胸髄節以下完全対麻痺の障害(運動・知覚完全麻痺。回復の見込みがない。前記第二の一3)という重度のものであるから、本件交通事故により猪狩忍が自殺することも予見できるというべきである。

したがつて、本件交通事故と猪狩忍の自殺との間に相当因果関係が認められる。

ウ そうすると、前記アの判例によると、猪狩忍の逸失利益を算定する際、自殺後の生活費を控除すべきところ、猪狩忍が自殺当時、独身の男子であつた(甲第九号証)から、同人の生活費控除率は五〇パーセントとするのが相当である。

(3) そして、平成四年度男子労働者学歴計全年齢平均賃金が五四四万一四〇〇円であり、また、猪狩忍の労働能力喪失率は、同人が負つた後遺障害が第五胸髄節以下完全対麻痺の障害(運動・知覚完全麻痺。回復の見込みがない。(前記第二の一3))というものであるから、一〇〇パーセントとするのが相当である。

なお、乙第二号証には、「デスクワークもしくは机上の軽作業などは十分可能であり、同様の例で社会復帰しているケースは決して珍しいものではない。」との記載があるが、右記載は、「就業に関しても、車椅子の使用が可能であるという条件が満たされれば、」という条件付きのものであるから、右記載をもつて直ちに猪狩忍の労働能力喪失率が一〇〇パーセントでなかつたとすることはできない。

(4) 以上のことからすると、逸失利益は、次の数式のとおり、四八六四万六一一六円となる。

5,441,400×(1-0.5)×17.880=48,646,116

(六) 慰謝料 二二四二万円

入院期間が二〇八日に渡ることなど弁論に現れた諸般の事情を総合すると、慰謝料は二二四二万円が相当である。

2  前記1の合計は七二四四万〇三九六円となるところ、前記一で述べた猪狩忍の過失三〇パーセント、既払分総合計一七〇八万四四八四円(前記第二の一4)を考慮すると、猪狩忍の損害(ただし、弁護士費用は除く。)は、次の数式のとおり、合計三三六二万三七九三円となる。

72,440,396×(1-0.3)-17,084,484=33,623,793

3  そして、本件における認容額、訴訟の経過等を斟酌すると弁護士費用は二〇〇万円が相当である。

4  以上によると、猪狩忍の損害は合計三五六二万三七九三円となるから、原告らそれぞれが相続した損害賠償債権は、金一七八一万一八九六円(損害の合計三五六二万三七九三円のうち、原告らそれぞれの相続分である二分の一に相当する額)及びこれに対する平成五年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金となる。

三  結論

よつて、原告らの請求は、それぞれ、金一七八一万一八九六円及びこれに対する平成五年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原洋三)

現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例